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東京高等裁判所 昭和45年(行ケ)32号 判決 1974年6月20日

原告

池谷弘

右訴訟代理人弁護士

藤本博光

同弁理士

猪股清

被告

三力鉄工株式会社

右代表者

渋谷一男

右訴訟代理人弁護士

石塚誠一

村松良

同弁理士

丹生藤吉

土橋秀夫

主文

特許庁が、昭和四五年一月二九日、同庁昭和四一年審判第八七五八号事件についてした審決を取消す。

訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

第二  請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和三八年一月一七日登録出願、昭和四一年五月一四日実用新案登録第八〇一五八三号「鋸盤等の送り装置における駆動装置」の実用新案権者であるが、被告が昭和四一年一二月七日特許庁に対しこの登録実用新案権について登録無効審判の請求をした。そして、この審判請求は、昭和四一年審判第八七五八号事件として審理されたが、昭和四五年一月二九日「登録第八〇一五八三号実用新案の登録は無効とする。」との審決があり、その謄本は同年二月二一日原告に送達された。

二  本件考案の要旨

(1)  定盤上面に近接して、上下、前後、左右調整可能に取付けられたローラーによる鋸盤等の送り装置に於いて、

(2)  該ローラーの駆動軸端に従動段車を固定し、該ローラーを装設する基盤上面に固着する台盤上に、一端縁を枢着され且上方へ押圧揺回し得る様にした台枠を設けて、

(3)  その上面に定速電動機を定着し、該電動機の駆動軸に軸方向へ変位可能な原動段車を軸支して、上記従動段車との間にベルトを懸架して連動したことを特徴とする駆動装置

三  本件審決の理由

審判請求人が提出した甲第一四号証のものがその要旨において実公昭三九―八三八〇号公報所載のもの(以下これを後者という)と同一であることは昭和四三年一月二五日付けで被請求人が提出した上申書にも述べられたとおりであり、またそれが本件登録実用新案の出願前すなわち昭和三七年四月大阪国際見本市に出品されたことは上記上申書および上記証人調書にも記載されたとおりである。そして上記証人調書によれば、「その送り装置を前後に動かすにはどうするのですか。その螺子を緩めて前後に動かすと好きな位置に持つて行けます。上下に動かすにはどうするのですか。下の大きなハンドルを左右に動かすことによつて上下に動かせます。左右に動かすにはどうするのですか。上の大きなハンドルを左右に動かすことによつて中のラックギャーを回転させ、それによつて左右に動きます。」(調書三葉裏面参照)と記載されているので、後者は前者の上記(1)の構成要件をみたしていることはきわめて明らかである。また「下平の機械では、モーターの主軸に五段の段車が付いていて、その回転をベルトで伝え、伝えられた回転をもう一度オームギャーによつて何分の一かに回転を落して、その回転をギャーにより送りローラーに伝える仕組でした。」(調書二葉裏面〜三葉一行参照)および「木工機械に定速モーターが使われるようになつたのはいつ頃からですか。木工機械にモーターを取付けた時から使われていました。尠くとも私が工場に入つた頃はすでに使われていました。その当時から定速モーターしかなかつたと思います。」(調書六葉裏面参照)の記載からみて、後者は前者の上記(Ⅲ)の構成要件をみたしているが、「Vベルトの掛け替えはどういうふうにしてやるのでしたか。モーターが水平についていて、そのモーター自身を前後に移送することによつて掛け替えることになつていました。」(調書三葉表面参照)の記載からみて、後者は前者の(Ⅱ)の構成要件とちがつたものであることが認められる。

しかしながら、この証人青島清智の陳述の「(a)Vベルトの掛け替えの方法で従来から証人の知つている装置にはどんな方法がありますか。モーターの位置そのものを取付け方によつて水平にあるいは上下に動かしてする方法と、(b)モーター台盤の中間を支点とし、台盤両端を螺子またはボルトで締めたり緩めたりして、モーターを団扇のように動かし、それによつて電動軸の位置を動かす方法との二つがあります。どちらの方法が多く採用されていますか。構造によつて違いますが、大体半々です。そういう方法のあることを証人は、いつ頃から知つていますか。私が工場へ入るようになつた昭和二二年当時から二つの方法ともありました。」(調書五葉裏面〜六葉表面参照)の記載からみれば、上記(a)の方法が後者の方法であつて、(b)の方法の改良されたものが前者の方法であることが十分認められる。そして「モーターの擺動の方法についてモーターを台盤上に乗せ、その台盤の一端を支点として、他端をボルト螺子の締め緩めすることにより台盤そのものを動かしてする方法と、モーターの枠に手を出し、その手を支点として、一方の手をボルト螺子で締め緩めすることによつて動かす方法との二通りがあるのですが、従来からあつたのはどちらの方法ですか。

私が現在使つている機械では、台の上にモーターを置いて、その台の一点を支え、他の一点をボルトで上げ下げするものですが、この型のものが通常多く、私の機械は中古で買つて来たもので製造年月日は判りませんが、中古機械を取扱つている業者に聞いたら、昭和初期のものだろうということでした。」(調書八葉表面と裏面参照)の記載にはいわば伝聞証言ともいえる個所があるので、これはさておき、上記(b)の方法を本件登録実用新案のもののように改良した点に考案があるや否やの点について審究するに、鋸盤等のロール自動送り装置の駆動装置において、モーター台盤の中間を支点として台盤の両端部に設けた螺子またはボルトで締めたり緩めたりしてかんたんに台盤を揺動しもつて原動段車と従動段車の掛け替えに便利ならしめる考案がすでにこの出願前公知であつたことは上記調書によつて明らかであり、また一般にモーターの台盤の一端を枢着させ他端のボルトを上下させることによつて台盤を揺動しもつて二段調車へベルトの掛け替えを容易にすることが甲第六号証(実公昭一〇―一七一一七号公報)に記載されたとおりこの出願前公知であるので、上記(b)のモーター台盤の中間を支点とし両端にボルトを設ける代わりに上記甲第六号証のように一端を支点とし他端にボルトを設けるものに置換させることは当業者の格別工夫を要しないで想到できる。

四  本件審決を取消すべき事由

本件審決は、静岡地方裁判所浜松支部における証人青島清知の証人尋問調書の記載および実用新案出願公告昭和三九年八三八〇号公報を引用し、昭和三七年四月大阪において開催された国際見本市に展示された「木工用自動送り機」は、前記本件考案の要旨のうち(3)の構成要件を充たしていると認定したが、これは誤認である。すなわち、(3)の構成要件のうち「定速電動機の駆動軸に軸方向に変位可能な原動段車を軸支して、」とある点については、前記証人尋問調書および引用公報にならん示されていない。したがつて、本件考案の要旨に関するその余の構成要件を引用例記載のものが具備しているか否かはさておき、本件審決は、少くも、上記の誤つた認定を前提として本件考案を当業者が容易に推考しうるものとした点において違法であるから、取消されるべきである。

第三  被告の答弁

原告の主張する請求原因事実は、すべて認める。

理由

原告の主張する請求原因事実は、すべて当事者間に争いがない。それによれば、原告の本訴請求は正当であるから、認容し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条、行政事件訴訟法第七条に則り、主文のとおり判決する。

(古関敏正 杉本良吉 宇野栄一郎)

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